切ないほど、愛おしい

「副社長は胃潰瘍の手術後で、脂っこい食事を止められている」
「そんな・・・」
どうやら知らなかったらしい小熊さんは、驚いた顔をした。

「どうだ?これでもこのスケジュールで行くって言うのか?もしそうなら、お前を秘書課から営業に戻すぞ。この程度の配慮もできないような人間に秘書なんてつとまらない」

「・・・」
かわいそうなくらいしょげてしまった小熊さん。

「どうする、俺がやろうか?」
キリッとした表情を崩すこと無く小熊さんを見る徹さんは、私の知らない顔をしている。

きっとこれが仕事の時の徹さんなんだ。
正しくて、厳しくて、少し怖いけれど信頼できる上司。

「すみませんでした、もう一度やらせて下さい」.
小熊さんが頭を下げた。

「よし、来週中に出してくれ。副社長夫婦のなじみの店をリストにして送っておく」
「はい、ありがとうございます」

ホッ、なんとか収まったみたい。

「今日は早めに帰れ。大体、休日出勤なんて認めてないからな」
「はい」

チラチラと私を気にしながら、小熊さんは部屋を出ていった。

「じゃ、行こうか?」
いつの間にか机の上も片づけていた徹さんが立ち上がる。

「あ、はい」

もう2度と来ることの無いだろう秘書室を出て、私達はもう一度駐車場に向かった。