切ないほど、愛おしい

「言いたいことがあれば言え」

決して怒るわけでも無く、少し語気を緩めた徹さんが小熊と呼ばれた男性を見ている。

「では。今回の訪日が今後の契約を見据えた物なのはわかっているつもりです。視察も会議も無駄なく組み込みましたし、ホテルも交通の便がいい一流の所にしました。食事も和洋中バランス良く入れましたし、問題ないと思います。それに、ホテルもレストランもなかなか予約が取れなくて苦労したんです」
さっきまで萎縮していたくせに、堂々と話す小熊さん。

「フーン。それで?」

「今さら変更なんてできません」
はっきりと言い切った。

凄いな。
こんなに威圧感出されても、きちんと主張できるのがうらやましい。

でも、

「はあー」
デスクに座り、額に手を当てた徹さんの溜息が聞こえてきた。

「お前は、副社長の奥さんがベジタリアンなのを知っているか?」
「はい。もちろん調べました。でも副社長は無類の肉好きで」

「じゃあ、あの夫婦の趣味が旅行で、特にアジアが好きで、日本に何度もやって来ていることは?」
「いえ・・・」

「奥さんは畳の部屋が好きだからって、日本旅館や民宿に泊るんだ」
「・・・」

「それに、このスケジュールは詰め込みすぎだ。ホテルと会議場や視察先の往復だけじゃあ日本に来た意味が無い」
「・・・」

「大体、奥さんは会議の間ずっとホテルで待つのか?その辺の配慮も全くされていない」
「・・・」

次々に飛び出す指摘に小熊さんが小さくなっていく。

「それに」
「えぇ?」
まだあるのかと、小熊さんの口から声が漏れた。