切ないほど、愛おしい

それからしばらく、徹さんはパソコンに向かっていた。

その時、

トントン。
突然ドアをノックする音。

え?
思わず、腰が浮いた。
ここに私がいたらまずいんじゃないかと体が反応してしまった。

「いいよ、ここにいて」

私に声をかけて、徹さんがドアを開ける。

「失礼します」
少し息を切らした若い男性の声。

部屋に入り、私を見て男性の足が止った。
不思議そうに、私と徹さんを交互に見ている。

「で?」
何か言いたそうな男性を無視して、徹さんが話を促す。

一見学生にでも見えそうな若い男性。
私と同じ年くらいかな。
少し茶色い髪と、整えられた眉。
いかにも若者って感じで、徹さんとは随分印象が違う。

「来月のアメリカから来る取引先とは大口の契約を視野に入れているから、きちんと手配をしてくれって言ったよな?」
なかなか切り出さない男性に、徹さんの方が詰め寄る。

「はい」

「じゃあ何でこんなスケジュールになるんだ?」

「それは・・・」

「今回の鍵を握るのは相手企業の副社長だ。そして、彼は愛妻家で、今回も婦人が同行してくる」

「はい」
わかっていますと言いたそうな男性。

「わかっているならやれ。すべてやり直しだ」

「ぇぇー」
男性の小さな呟きが私にも聞こえた。

咄嗟に徹さんを見てしまった。
もしかして怒り出すかも、そう思った。
しかし、

「小熊」
それは冷たい声。