「これって外車でしょ?」

車に乗ってしまえば逃出すこともできず、キョロキョロと車の中を見回した。
きっとこんな高級車にはこの先も縁が無いんだろうから、せっかくなので乗り心地を楽しむことにしよう。

私だって医者として真面目に働けば、そこそこ良い暮らしができる予定ではある。
一人で暮らすのに困ることはないと思う。
でも勤務医の給料なんてたかが知れているから、ここまでの贅沢はできないだろう。
やっぱ、徹さんは凄い人だわ。


「そんなに珍しいか?」
「そりゃあ外車なんて乗ったことがないから」

当然じゃないのと答えた私に、徹さんがちょっとイジワルそうな顔をした。

「あれ、おかしいなあ?一昨日だってマンションまで乗って帰ったじゃないか」
「あれは、体調も悪かったし・・・」

なんだか馬鹿にされたようで、言葉に詰まった。

あの日のことは言わないで欲しい。
初対面の人の車で寝込んでしまって気がつけば朝だったなんて、あまりにも無防備過ぎた。
私にとっては人生最大の汚点。

「確かに、ぐっすり寝てたな」
追い打ちをかけるように、徹さんが笑っている。

「・・・意地悪」

さすがに恥ずかしくなり、プイと顔を外した。