無邪気というか、無防備というか、車が走り出して10分もしないうちに彼女は眠ってしまった。

よほど疲れていたのかスヤスヤと寝息をたて、起きる気配も無い。
さすがに怖くなって、何度か呼吸を確かめてしまったくらいだ。


「オイ、ついたぞ」

マンションの駐車場に着き、声をかけたが当然起きない。

困ったな。
これじゃあ俺が連れ込んだみたいじゃないか。

気持ちよさそうに眠る顔を見ながら少し悩んで、しかたがないと彼女を抱え上げた。

都内の一等地に建つマンション。
普通のサラリーマンにはまず手の出せないところに、俺は住んでいる。
もちろん、それにはそれなりの理由もあるんだが、今日ばかりはここに住んでいたことに感謝した。
お陰で誰にも会わずに部屋まで彼女を抱えて行ける。

駐車場からエレベーターに乗って最上階の部屋まで。
やはり誰に会うこともなく、彼女を抱えて帰った。

なんとか靴を脱がせ、服は着せたまま寝室のベットに寝かせる。
きっとこのまま朝まで起きないだろう。

「おやすみ」
返事が返ってこないことはわかっていて、声をかけてから寝室を出た。


翌朝。
仕事の予定が入っていた俺は早い時間から起き出した。
彼女はまだ眠っている。

しかたない、起すのもかわいそうだ。

週2で頼んでいる家政婦さんが冷蔵庫に作り置きしてくれているから、食べるものはある。
勝手に食べてくれとメモを残し、言葉を交わすこともなく出社することにした。
まさかその日のうちに、再会することになるとは思ってもいなかった。