切ないほど、愛おしい

高校時代の陣は人一倍働いて、寝る時間もなかったはずなのに、いつも幸せそうだった。

お袋さんと二人暮らしの妹のために必死に働き、少ない自由時間も家族のために使っていた。

「俺、明日休むから」
絶対に学校を休まない陣がこういうときは、いつも乃恵ちゃんの用事。

「何があるんだ?」
呆れ気味に聞くと、

「運動会なんだ。乃恵が見に来てくれって言うからさ」
「ふーん」

ニタニタとうれしそうな陣を見て「それは父親の顔だぞ」と言いそうになった。

「そんなにかわいいもんかね?」
家族のいない俺にはさっぱりわからない。

「ああ、かわいいさ」
キッパリと言い切る陣。

高校を卒業してからも陣との付き合いは続き、事ある毎に妹の話を聞かされてきた。

1度も会ったこと無くても、俺は彼女を知っている。

中1でお袋さんと死別して、体調を崩して倒れてしまったことも、
高校受験のストレスで、毎日のように陣と喧嘩を繰り返していたことも、
どうしても医学部に行きたいと、睡眠時間を削って人一倍勉強していたことも、
少しでも陣の負担を減らしたくて始めた夜のバイトが陣に見つかり、初めて叩かれたことも、

すべて陣から聞かされた。
たとえるなら親戚のお兄さんのような感覚だろうか?

だから、放ってはおけないんだ。