切ないほど、愛おしい

「えっ」
驚いた顔をする彼女。

そりゃあそうだ。
誰にも会いたくないからこんな所まで来たのに、いきなり知らない男に声をかけられたんだから。

「ここは敷地内禁煙だろ」

彼女に近づき初めて真っ正面から顔を見た。

大きく二重の目と存在感のある唇が陣に似ている。
間違いない、彼女は陣の妹だ。

「やめておけ」
タバコを取り上げ彼女の手を掴む。

清楚な容姿とは裏腹に強い眼差しで俺を睨みつける彼女。
その表情が今にも崩れて涙が溢れ出しそうなのに、奥歯をぐっと噛み締めて堪えている。

「離しなさいよ」

突然腕をとられ身動きのとれなくなった彼女が語気を荒げて抵抗するけれど、こんな細い体ではどんなに暴れたって敵うはずもない。

「無理するんじゃない」
俺は距離を詰め、そっと肩を引き寄せた。

突然の事に、目を丸くして放心状態の彼女。

「なんで?」
ささやかれた小さな声。

この行動にはっきりとした理由なんてない。
ただ、放っておくことができなかっただけ。

一歩間違えば痴漢行為。
騒がれれば俺の人生は終わる。
わかっていても、傷だらけの彼女を一人にはできなかった。

しばらくして、

「ウッ、ウウッ」
肩をふるわせ、彼女が泣き出した。

俺はためらうことなく背中に手を回した。