切ないほど、愛おしい

「オイ、あんた」

高校時代の陣を思い出しながら歩いていた俺に、棘のある声が耳に入ってきた。

それは前を歩く彼女に向けられた言葉。
歩を止め、呆然と声の方を見る彼女。

「あんたのせいで、俺の子供が死んじまったじゃないか」

切羽詰まった男性の声と内容に、その場にいた人たちの視線が集る。

子供が死んだなんてただ事ではない。
言葉を投げかけられた彼女も固まってしまった。

「ご主人、どうか落ち着いてください」
騒動を聞きつけたのか、白衣の女性が出てきた。

どうやらこの人は患者の旦那さんのようだ。
そして、怒鳴られた女性、ハセガワノエはここのスタッフ。
話の流れからすると医者らしい。

待合にいる誰もが身動きできないで、事の流れを見守っていた。

しばらくして、

「産科部長の亀井です。奥様の病状についてご説明しますのでこちらにお願いします」
中年の医師が現れ、男性は診察室へと消えて行った。

そして、
彼女の前に立った白衣の女医が優しい言葉をかけるのかと思ったら、「間が悪いわね」「消えて」と冷たく言い放った。

実際、誰が悪いのかなんて俺にはわからない。
彼女に非があるのかもしれない。
それでも、顔面蒼白でたたずむ彼女がかわいそうでしかたなかった。


女医も診察室に戻っていき、周囲からの冷ややかな視線を浴びていた彼女が出入口へと歩き出す。

俺は無意識に、その後を追っていた。