私の反応を、2人で出かけることがイヤだと言ったように理解した徹さんはちょっとだけ不機嫌そうな顔になった。


「今日だって、部屋の入り口を見ただけで震えていたのに。1人で手続きができるのか?」

「それは・・・」

正直あそこには行きたくない。

「アパートだって、医者だと言えば借りられないことはないだろうけれど、この間まで学生だったんだろ?保証人を付けろって話にはなるぞ」

「そう、ね」
確かに。
でも、
「大丈夫よ。いざとなれば、お兄ちゃんに頼むから」

きっと怒られるだろうけれど、文句を言いながらでも来てくれると思う。

「残念。あいつ明日の朝一で出張」
「え、嘘」

私は、聞いてないけれど。

「何かトラブルがあったらしくて、急に決まったらしい」
「へえー」

でも、困ったな。
それじゃあ、私は身動きがとれない。

「明日は俺が付き合うよ」
「いいの?」

徹さんは、私以上に忙しいはずでしょ?

「乗りかかった船だ」

「すみません」
申し訳ないとの思いから、私は深く頭を下げた。

「ただし、昨日のことも、今日のことも、まだ陣には黙っていろ。あいつのことだから心配するだろうし、俺もあいつとの関係をギクシャクさせたくはない。事件の処理も終わって、新しいアパートに引っ越してからすべて話す方が良いだろう?」
「はい」

その方が丸く収まる。

「じゃあ、今日はもう寝ろ。明日は早めに出かけるからな」
「はい」

まるでお兄ちゃんがもう1人増えたみたいだなと想いながら、私は荷物を抱えてゲストルームに向かった。..