切ないほど、愛おしい

1時間ほどで辺りもやっと静かになった。
人集りもなくなって、部屋の明かりも消えた。


「お待たせ」
私の隣に乗り込んだ徹さん。

「大丈夫か?」
心配そうに私を見る顔が、なぜか優しい。

「うん、平気」


私たちを乗せたタクシーは走り出した。

徹さんからはどこへ向かうのかも説明がないけれど、私もあえて聞かない。
今の私には帰る場所もないんだから。


「あの部屋、何日帰ってなかったんだ?」

「えっと、10日くらい」

何度かアパートの近くまでは行ったけれど、怖くて帰れなかった。

「そうか」

そう答える徹さんの声が沈んで聞こえ、顔を上げた。

「どうかしたの?」

「あの部屋、中も荒らされていた。空き巣なのか取り立てやなのかはわからないけれど、ひどい有様だ」

ブルッ。
一瞬、寒気がした。

「引っ越した方がいいだろうな」

「うん」

誰に荒らされたのかも、またいつ誰が来るかも分からないところには帰れない。

「明日中には警察の見分が終わるから、どうしても必要な物はそれから取りに行こう」
「うん」
「今日は俺のマンションでいいか?」
「はい」

もう、反抗する元気もない。