大体ね、昨日のことをお兄ちゃんに話せば困るのは私だけではないと思う。
徹さんだって、私を自宅に泊めてくれたわけで、お兄ちゃんならきっと怒るだろうし。

「とにかく、アパートへ行ってみるか」
すでに腰を上げ、私のカバンまで持った徹さん。

どうやら、ここで解放って訳にはいかないらしい。
困ったな。

「ほら、行くよ」
私の返事など待つこともなく、店を出ようとする。

「行きますから、返して」
私は、勢いよくカバンを引っ張った。

ったく、女性の私物に勝手に触らないでほしい。
怒りの気持ちを込めて睨みつけてやろうと思ったのに、

ギュッ。
カバンを持った腕ごと掴まれた。

な、なんなの、この人。

「逃げられたら、困るからね」

当然のように言っているけれど、絶対おかしいから。

「ほら、行くよ」

「・・・」
もう、言葉も出ない。

どのみち逃げられないなら行くしかないだろう。
本音を言えば1人でアパートに帰るのは怖かったし、ついて来てもらえば心強い。


店の支払いはお兄ちゃんが済ませていたらしく、私と徹さんはそのまま店を出た。