「こら、乃恵」
店内に響く声。

ヤバッ。


大股で近づいたお兄ちゃんが、目の前で歩を止めた。

「何をしてるんだ」
眉毛をキリッと上げてすごい眼力。

「いいじゃない、少しくらい」
私だって飲みたいときくらいある。

「おまえ・・・」
こめかみに青筋を立てて、怒り心頭。

こんなにお兄ちゃんを怒らせたのはいつぶりだろう。
でも、私だって今は引けない。

「私も24なの。病気だって落ち着いているし、そもそも私は医者なの。少しは信用してちょうだい」

「信用なんてできるかっ」
今にも手が出そうなのを必死にこらえているのがわかる。

その時、

ブー、ブー、ブー。
絶妙なタイミングで、お兄ちゃんの携帯が再び鳴った。

ホッ、助かった。

「陣、忙しいんだろ。行けよ」

チラチラと携帯を気にするお兄ちゃんに徹さんが声をかける。

「しかし・・・」

複雑な表情で、私と徹さんを交互に見ているお兄ちゃん。

「無理するな。乃恵ちゃんは俺が送るから。今ここにいても喧嘩になるだけだろ?」

さすが、よくわかっているじゃない。

「そうか?じゃあ、頼むわ。乃恵、これ以上飲むなよ。いいな?」
「はいはい」
「ったく、お前は・・・」

少しだけ悩んでから、結局お兄ちゃんは店を出て行った。