切ないほど、愛おしい

「そう言えば、徹は初めてだっけ?」
チラッと私を見たお兄ちゃん。

「ああ、そうだな」
表情を崩すことないの男性。

「えっと、あの、私は、」
何か言わなくちゃと思うけれど、言葉が出ない。

「初めまして、香山徹です」

初対面でないのはわかっているはずなのに、きちんと挨拶をしてくれる徹さん。
まあ、私もその方が助かるけれど。

病院でもめた事も、泣いてしまったことも、たばこを吸ったことも、すべてお兄ちゃんの耳には入れたくない。
だから、

「初めまして、長谷川乃恵です」
私も初対面の挨拶を返した。


その後はお兄ちゃんが私の好きなメニューを追加で頼んでくれて、徹さんと仕事の話で盛り上がる。
私は黙々と食べながら、2人の話を聞いていた。

どうやら、徹さんは鈴森商事の社長秘書らしい。
鈴森商事って言えば私でも名前を聞いた事のある上場企業。

へえー、エリートなのね。
ペンネを頬張りながら、そんな感想を持った。

確かに着ているスーツも高そうだし、身のこなしもスマートで、お金持ちって感じではある。
いかにももてそう。

「それで、例の話は引き受けてくれるのか?」
少し真面目な顔になった徹さんが、お兄ちゃんを見る。

「うぅーん」
お兄ちゃんの方は複雑な表情をした。