切ないほど、愛おしい

お兄ちゃんと男性と私。
少し照明の落とされた店内で、1つのテーブルを囲むことになった。

「悪いな、呼び出して」
お兄ちゃんはなぜかご機嫌だ。

「いや、俺もお前に礼を言いたいと思っていたから」
男性もお兄ちゃんに勧められて、ワインに口を付ける。

「礼なんて必要ない。俺は仕事をしただけだ」
まるで私の存在を無視するように、2人の会話は続く。

仕事ねえ。
実際お兄ちゃんがどこでどんな仕事をしているのか私は知らないけれど、私学の医学部に行かせるためには半端じゃない金が必要なことはわかっている。
それでも、お兄ちゃんは一度も延滞することなくそのお金を用意してくれた。
なんでも屋なんて得体の知れない仕事でどうやって工面できたかは不思議だなと思いながら、私はずっとお兄ちゃんに甘えて生きてきた。

「今回はお前に助けられた。お前が色々と調べ上げてくれなかったら、会社が危なかった」

男性は一旦グラスを置き、

「陣、助かった。ありがとう」
きちんと頭を下げた。

何か、意外。

だってこの人、昨日病院で出会った人。
たばこを取り上げて、抱きしめてくれて、部屋に泊めてくれた人。