半年後、休職期間が明けると共に私は地元の市立病院へ研修先を変更した。

そこは、一応産科はあるものの通常の分娩の対応が精一杯で、難しい患者は大学病院へ搬送するしかないようなところ。
珍しい症例にも出会わず、高度医療からもかけ離れたところだけれど、穏やかで一人一人の患者さんとじっくり向き合える病院。
私はここで残された1年半の研修を受けることにした。

この決断に迷いがなかったと言えば、嘘になる。
医者としてのスキルを考えるなら大学病院にいる方がいいとも思うし、一度決めたことを諦めたくもなかった。
でもこの先を考えたとき、仕事だけがすべてでないと思えた。
そう思わせてくれたの徹。
彼と生きるために、私は人生の優先順位を少しだけ変更した。

「乃恵先生、あがりですか?」
ちょうどデスクを片づけたところで、後輩研修医の和人君が声をかけてきた、

「うん、もう帰るよ」
この病院に来てから残業もほとんどないし、ほぼ毎日定時の生活。

「今からみんなで飲みに行くんですけれど、よかったら一緒に行きましょうよ」
「ええー」

見ると、和人君の後ろには数人のスタッフの姿がある。
どうやら今日は若手の飲み会ってところかしら。

「もしかして、旦那さんに怒られます?」
迷っている私を見て、年上の看護師美咲さんが心配してくれる。

「別に、怒られはしないし。それに今は出張中で留守なの」
だから、徹のことはいいんだけれど。

「何か、予定がありますか?」
「うん、友達と食事の約束が」

「友達って、あのすげー美人ですか?」
「うん」

「「ぜひ、ご一緒に」」
あーぁ、男性陣の声がそろっちゃった。