切ないほど、愛おしい

少しだけドアが開き顔を覗かせたのは、

「徹?」

ここにいるはずのない人の登場に驚いた。

「ここはもういいから、行きなさい」
山神先生は厳しい表情のまま、私の背中を押す。

いや、でも、なんでここに徹がいるんだろう。

「紗耶香さん、私はこれで失礼しますね」
「ありがとうございました」

一応紗耶香さんに挨拶をして、私は廊下へと出た。


「お邪魔しました」
ずいぶん長居をしてしまったから助産師さんにも挨拶をして、さあ徹のところへと思っていると、

ギュッ。
すごい力で、腕をつかまれた。

「徹、痛いよ」
無意識で出た言葉。

それでも徹の力が緩むことはなく、私は引きずるように産院を連れ出された。

「ねえ、待って。徹、お願いだから待ってよ」

いくら言っても徹の返事はなく、どんどんと歩いていく。
少し歩いた先に、見慣れた車が止まっていた。


助手席を開け押し込むように私を乗せると、
バンッ。
乱暴にドアを閉めて車を発進させた。