「お疲れ様」
「ああ、お疲れ」

病院を出た私は、最近出来たばかりのイタリアンレストランへやって来た。

普段は外食なんて滅多にしないけれど、今日は特別。

「お前、痩せた?」

乾杯よりも先に言われ、ムッとした。

「大丈夫、元気よ。ご心配なく」

「そうか?」
首を傾げながらグラスを傾ける。

ったく、いつまで経っても過保護なんだから。
いい加減、妹離れして欲しい。

私の目の前で、ワインを飲む男。
この人は私のお兄ちゃん。
7歳上で、母さんが死んでからずっと私を育ててくれた人。
物心ついたときから父さんのいなかった私にとって、父親みたいな存在。

「仕事、辛いんじゃないのか?」

「平気」

本当のことを言えばお兄ちゃんが心配するだけだから、私はいつも強がってしまう。
いつも元気な妹でいようと、つい無理をする。
それが無意味なことは自分でもわかっているのに。
でも、弱音は吐けない。
私が医者になるために、お兄ちゃんがどれだけの犠牲を払ったのか私は知っているから。

「あんな大きな総合病院の、それも一番過酷だって聞く産科なんか行かなくても、他にも行き先はあっただろう」

はあー。
またこの話。

最近は顔を見れば同じ会話。
いい加減にいうんざりする。

「良いじゃない。私が好きでやっているんだから」
強めの口調で言うと、お兄ちゃんの前に置かれたワインを一気に飲み込んだ。