切ないほど、愛おしい

社長の提案に対して、俺は答えを出せなかった。
でも、従うしかないんだろう。
それだけの恩が社長にはあるし、言われることももっともだと思えた。


「乃恵さん」

30分ほど滞在した社長が、帰り際乃恵のベットに歩み寄った。

「みんなが待っているからね」

そっと手を重ね語り掛ける口調はとても優しくて、少し驚いた
仕事一筋で親としての顔など見せたことのない社長も、こんな顔をするんだな。

乃恵、戻って来い。
陣も、麗子も、山神先生も、雪菜ちゃんも、スタッフのみんなも、もちろん俺も待っているから。


「ありがとうございました」
病室の外へ見送る俺を、
「じゃあ、待っているぞ」
社長はもう一度念を押して帰っていった。



「仕事復帰かあぁ」
社長がいなくなった病室で、思わず声に出た。

いつかそんな日が来るとは思っていたが・・・

俺が素直に出社すれば、今回のことは長期休暇として不問に付す。
ぶち壊した見合いも、すでに社長が頭を下げてくれたらしく問題はない。
さすがに秘書課長としての勤務ってわけにはいかないら、役職は外して社長専任の秘書として勤務する。
来年春の起業話は白紙に戻すが、先々は海外勤務を含めて移動も考える。
それが社長の提示した条件。
きっと、俺は従うしかないんだろうな。