「病院で家の話をすることはめったにないんです。ここにいる子供たちのほとんどが家族と離れてさみしい思いをしていますから、できるだけ私生活は出さないようにしています」
「はあ」
なるほど。

これも医者ならではの配慮ってことか。

「なんてね、本当は自分のことを話すのが好きではないんです。楽しいことは人に話さずに、1人でニタニタと笑っていたい。要は陰湿な人間です」
「そんなぁ」

物静かで多くを語らず、生活感がないのは認めるが、陰湿な人間とは違う気がする。
どちらかというと、どっしりと構え、すべてを飲み込むような度量の大きさを感じる。

「僕たち、似てますよね」
「え?」

一瞬、言われたことが理解できなかった。

「すみません、失礼でしたね」
「いえ」

そんなことはない。
かえって光栄だと思う。

人当たりがよくて、穏やかで、小児科医の鏡みたいな人だ。
似ているといわれてうれしくないはずはない。
でも、

「似ていませんよ。僕は冷酷な人間ですから」
「そうですか?」
「ええ」

「じゃあ聞きますが、目の前にケーキがあるとして、その中で一番好きなケーキは自分のお皿に入れますか?それともお客さんのお皿に入れますか?」
「それは、」

「僕だったら、好きなものはまず隠しておいて、残りを『お好きなものをどうぞ』って出すと思います」

ウッ。
息を飲み込んでしまった。