乃恵が倒れて2ヶ月。

俺は相変わらず、乃恵の付き添いを続けていた。
まあ病室とはいっても、さすが特別室だけあって付き添い用の仮眠室もシャワールームもあり不便を感じることはない。

そして、陣もほぼ毎日やってくる。

俺のことは完全無視だが、病室から追い出そうとはしなくなった。
陣がやってくると俺のほうが病室を出て、1時間ほど時間をつぶす。

中庭のベンチに座ったり、屋上に出てみたり、時には山神先生の医局でコーヒーをごちそうになるときもある。


「珍しいコーヒー豆を手に入れたんです。よかったらどうぞ」

この日も、廊下で山神先生に出会い、医局に誘われた。

「いつもすみません」

生活圏がこの病院の中だけになってしまった俺は他に行く当てもなく、ずうずうしくも着いてきてしまった。

「家内がアフリカで買ってきた豆なんです。少し癖がありますが、すっきりとさわやかな飲みご心地です。さあどうぞ」

大き目のマグカップに入れられた琥珀色の液体。
柔らかな湯気と独特の香りを放つその飲み物を、俺は一口流し込んだ。