切ないほど、愛おしい

こうして眠っていれば、辛いことも苦しいこともない。
記憶も幸せだった時のまま。ずっと思い出の中にいられる。

「乃恵」
遠くの方から私を呼ぶ声がした。
これは、お兄ちゃんの声。

「乃恵ちゃん」
今度は、心配そうな麗子さんの声。

「乃恵ちゃん」
この声は、山神先生。

「長谷川、いい加減目を覚ましなさい」
これは先輩の、馬場先生。

「乃恵」
雪菜ちゃんの涙声も。

そうか、みんな心配してくれているんだ。

「乃恵、戻ってこい」

徹?

「お願いだから、戻ってこい。俺を1人にするな」
それは徹の苦しそうな声。

そうだ、私には待っていてくれる人たちがいる。
私のことを心配してくれる人たちが。
だから、まだ死ねない。

たとえ子供を生めなくても、仕事ができなくても、寝たきりになっても、生きたい。
死にたくない。
みんなに会いたい。
そして、
誰よりも徹に会いたい。

「乃恵」
「乃恵ちゃん」
「長谷川」

先のない暗闇の中で、私を呼ぶ声だけが耳に届く。

この声たちが、まだ死ぬんじゃないと言っている。