子供頃読んだおとぎ話の中で、『王子様とお姫様は結ばれ幸せに暮らしました』で終わるのを見て、この先はどうなるんだろうと思った。
好きな人と結ばれてパッピーエンドで終われるなら、それが一番幸せ。
そんなこと誰でもわかっている。おとぎ話の世界ではきっとそれでいいんだろうとも思う。
でも現実の世界はその先も続くわけで、めでたしめでたしって訳にはいかない。

だから、私は眠ってしまったのかもしれない。

あの日、あの時まで、間違いなく私は幸せだった。
生まれて初めてこの人のために命を落としてもいいと思える人と出会い、彼もまた私を愛してくれていることがわかった。
この人がいれば他には何もいらないと願った。
同時に、私といることで彼が何かを失わなければならないことを、知ってしまった。

あの雨の中、走り出したのは一種の自殺行為。
このままいなくなってもいいと、思っていた。


「乃恵、朝だぞ」
今日もまた、遠くの方から徹の声が聞こえる。

この声に応えて目覚めたら、私は徹のもとに戻れる。
分かっていてもまだ、私は微睡の中にいた。