切ないほど、愛おしい

「また来るわね」
持ってきたブラックカードを無理矢理俺のポケットにねじ込み、麗子が病室のドアに手をかける。

「ああ、気をつけて帰れ」

なんだかんだ言って、麗子のお陰で俺はここにいられる。
それが分かっているから、突き返すことは出来なかった。

「うん。じゃあね」
「ありがとう」



麗子が帰り、また乃恵と2人になった病室。

「乃恵、朝だぞ」
いつものように、ベットの上で静かな寝息を立てる彼女に声をかける。

透き通るように白い肌と艶のある黒髪はとても美しくて、意識を失った病人の物とは思えない。
今にも目を開けて動き出しそうな気さえするのに。

乃恵、お前はどうして目を開けてはくれないんだ?

「香山さん、おはようございます」
ちょうど、主治医の山神先生が回診にやっていた。

「おはようございます、山神先生」
どこにも行かず毎日ここにいる俺も、この病院で彼女に関わる人たちの顔と名前を覚えてしまった。