切ないほど、愛おしい

俺が乃恵の転院と共に東京に戻ってきたのは、見合いの日から1週間後のことだった。
それまで会社にも社長にも一切の連絡を絶っていた俺の前に社長が現れたのは、転院の翌日。

当時の俺は陣の逆鱗に触れために病室にも入れてもらえず、廊下に置いたイスに座り病室のドアを眺めていることしか出来なかった。

そんな情けない俺の前に立ち、ギロッと俺を睨み付けた社長。
何を言われるのかとドキドキしている俺の頬を、
パシンッ。
思いっきり張り倒した。

「馬鹿者っ」
静かな廊下に響き渡る怒鳴り声。

「すみません」
俺としては他に言葉がない。


その後病室へと入って行った社長は、付き添っていた陣に向かって頭を下げた。
一緒にやって来ていた孝太郎も、麗子が迷惑をかけたと詫びた。
こうなると、怒っていた陣も何も言えない。

この日から、俺はやっと乃恵の側に付き添うことを許された。
陣にしてみたら不満だっただろうが、俺は救われた。

だから社長は俺に怒っているはずで、間違ってもカードなんてよこすはずがないんだが。