切ないほど、愛おしい

あれから1ヶ月。
俺はいつもと変わらない朝を迎えていた。

ここは20階建ての大学病院の最上階にあるVIPフロア。
入り口もエレベーターも一般のものとは分けられ、誰にも会うこと無く病室まで来ることができる場所。
転院の時、陣がどうしてもとここに入れた。
高い部屋代を払う代わりに、プライバシーとセキュリティーを買っているわけだ。

「徹、食事を冷蔵庫に入れておいたから必ず食べるのよ」
まるで母親のように口うるさい麗子。

「ああ、わかっているから」
子供じゃないんだ、食べたくなったら食べる。

「わかってないから言うんでしょ、昨日の食事もほとんど手つかずじゃない」
昨日入れた食事を片付けながら、不満そうな顔。

今回のことに麗子は責任を感じているらしく、毎日病院にやってきては俺と乃恵の世話をしてくれる。
お陰で俺は心置きなく乃恵に付き添えるんだが、

「いい加減、お前も忙しいんじゃないのか?」

孝太郎の専任秘書は麗子しかいないわけで、仕事の量だって少なくはないはずだ。
俺のことにかまっている余裕はないと思うがな。

「いいのよ、これは私の責任なんだし」
真面目な顔でギュッと唇を結んだ麗子。

綺麗な奴が真剣な顔をすると、凄みがあって怖い気さえする。