切ないほど、愛おしい

結局、それ以上は聞けなかった。

名前も年齢も知らないまま、ただじっとその場にいた。

なぜだろう、こんなに至近距離にいるのに動くことができない。

「大変な仕事だな」
背中をトントンしながらしみじみ言われ、

クスン。
また、涙が滲んだ。

私はいい人間じゃない。
欲深くて、打算的で、その上弱者を装う偽善者なんだから。

「お願い、優しくしないで」

このままじゃ弱音を吐きそうで、
ちょっとだけ、接近した体を押し戻そうとした。
けれど、

「バーカ。こんな時は黙って甘えてろ」
背中に回った手が私を包み込む。

「・・・うん」
私はその温もりに流された。

こんな風に、人に甘えるのは母さんが死んで以来かな。

マズイ。
心が揺れている。

いや、違う。
これは、
胸が・・・
動悸が・・・

どうしよう、苦しい。

「どうした?大丈夫?」
異変を感じた男性が私を見下ろす。

「く、苦しい」
大丈夫ですなんて取り繕う余裕は、私にはなかった。

「病院へ行こう。って、ここも病院だけど。とにかく救急へ」
「待って」

すぐにでも私を抱え上げようとする男性の手を止めた。

「大丈夫、少しすれば収まるから。お願い待って」

救急を受診すればしばらく仕事はできなくなるだろう。
下手をすれば、入院なんて事にもなりかねない。
それは困る。

「本当に大丈夫なの?」
「ええ、これでも医者ですから」

このくらいの発作ならジッとしていれば収まるはず。
過去の経験は伊達ではない。