切ないほど、愛おしい

「安心しろ。元から断るつもりの縁談だったんだ」
「徹さん?」

乃恵が驚くのも無理はない。
そんないい加減な気持ちでお見合いをすれば、相手にも失礼だと思う。
でも、

「俺は誰とも結婚するつもりなんてない。そのことは社長にも伝えてあった」

「じゃあ」

なんでお見合いなんてしたのよと言いたいんだろう。

「何でだろうな」
俺にもよくはわからない。

乃恵に会えなくなって約1ヶ月。
陣の手前連絡を取ることもできない中で、会いたい、側に行きたい思いが募っていた。
そんな矢先に見合いや起業の話が出て、珍しくうろたえた。
いつもどんなアクシデントが起きても冷静に処理する俺が、自暴自棄になってしまった。

「らしくないわね」
「だな」

何をやってもやる気が出ず、何を食べても美味しくなくて、しまいには仕事も私生活もどうでもいい気がした。
その虚無感の理由がわからないまま時間だけが過ぎ、とうとう『とにかく会うだけでいいから』と言う社長の言葉をはねのけるエネルギーもなくなった。

でも、俺は知ってしまったんだ。
昨日、ホテルで乃恵の顔を見た瞬間、自分が何を求めていたのかにはっきりと気づいた。

「乃恵、俺はお前が好きだ」

何の脈絡もなく出た言葉に、目を丸くする乃恵。
俺はそのまま乃恵を抱き寄せた。