切ないほど、愛おしい

「バカ、なんて顔をするんだ。お前らしくもない」
「すみません」

俺は小学生の頃に親に死なれ、1人で生きてきた。
その間社長にはとてもよくしてもらった。
厳しく大切に育ててもらった。
そのことには感謝もしているし、社長のことは人としても上司としても尊敬している。
もちろんそれは子供が親に対して抱く感情とは少し違うが、本当の意味での家族を知らない俺にとって社長は親のような存在だ。
それをいきなり・・・

「来年始める子会社を、1つお前に任そうと思う」

えっ。

「そんなに大きな会社ではないが、うちの会社からの資金が半分とお前のおやじから預かっていた金で半分。はじめはうちの会社からも人員を送るつもりだし、ノウハウも営業ルートも提供する。ただし、その先大きくするのも潰すのもお前次第だ。何しろ、お前が社長なんだからな」

「社長」
驚きのあまり言葉が続かない。

それに、今まで裏方に徹してきた俺に社長なんてできるとは思えない。
会社経営はそんなに簡単なものではないはずだ。

「今まで8年も、わしの側で経営の現場を見てきたんだ。お前ならきっとできる」
「しかし」
とてもじゃないが、『はい、わかりました』と言える状況ではない。

「まだ時間はある、慌てずゆっくり準備をすればいい。ただ、その覚悟をしておいてほしいと言っているんだ」
「ですから」
それができないと俺も言っているわけで、

「なあ徹」
仕事の場では聞くことの少ない優しい声。