切ないほど、愛おしい

「ここまで来てしまったこと、乃恵は後悔していない?」

仲居さんが入れていってくれたお茶を飲みながら、徹さんが私を見た。

「いいえ、私は後悔はしてない。でも、」
「でも?」

「今回のことで、徹さんが困ったことになるんじゃないかと」
心配でしかたない。

私なんて今日は最初から休みだし、明日も勤務のシフトに入っているわけではない。
最悪連絡さえ入れれば、しばらく休みを取ることもできると思う。
もちろん、その後溜った仕事のツケが待っているんだけれど。

「確かにそうだな。何しろ、社長同席の見合いの席をぶちこわして逃げてきたんだから。困った事態ではあるな」

徹さんは飄々とした口調で言っているけれど、一大事じゃない。
仕事がらみのお見合いだったなら、今後の仕事にも尾を引きそう。

「今からでも帰った方がいいんじゃ」
「バカ、どっちみちもう遅いよ。それに、タクシーに乗り込んだ時点で携帯を切ったんだ。恩義ある社長に着信拒否を貫いた以上、俺は戻るつもりもない」
「・・・ごめんなさい」
やはり私が悪い気がして、謝ってしまった。

「何度も言わせるな。乃恵は悪くないんだから、謝るな」
「でも」
それでもまだ口を開こうとする私を、

「もういい」

徹さんがギュッと抱きしめる。
なぜか、私は抵抗しなかった。