切ないほど、愛おしい

ホテルを出て、街を歩き、タクシーに乗り込んだ。

このまま徹さんのマンションに向かうのか、それともお兄ちゃんのマンションに送ってくれるのか、どちらにしても話ができるところへ行くんだろう。
そう思ったから、行き先を聞こうとも思わなかった。

しかし、タクシーは高速に乗りスピードを上げて走り続ける。

15分。

30分。

さすがにいくつかのサービスエリアを通り過ぎたところで、不安になった。

徹さんは一体どこに行くつもりだろう?
明日は日曜日だから、お休みなんだろうか?

「帰りたい?」
キョロキョロと車窓を見ていた私に、徹さんが聞いてきた。

「うんん。大丈夫、徹さんと」

一緒にいたいと言おうとして、言えない。
こんな時に、自分の思いをただぶつけるのは無責任な気がした。

今の徹さんは、とんでもない窮地に立たされているはず。
だって、お見合いの席から逃出してきたんだもの。
そして、その責任は少なからず私にある。
私があの場に現れなければ、こんなことにはならなかったんだから。

「徹さん、ごめんなさい」
「何が?何で乃恵が謝るんだ?」
「だって、」

きっと、徹さんにとって大切な席だったはずなのに。
この先とんでもない展開が待っているかもしれないのに。

「俺は、自分の意志で逃げてきたんだ。そのことに乃恵は責任を感じる必要はない」
「でも、」
「もういい。何も言うなっ」
ピシャリと言って、徹さんは口を閉ざしてしまった。