切ないほど、愛おしい

その後の展開は、驚くくらい早かった。

徹さんが席を立ち、頭を下げる。
それを見た瞬間、私も立ち上がっていた。

「申し訳ありません」
何度も口にして、深々と腰を折る徹さん。

唖然とした女性たちは言葉もなく、同席していたおじさまは睨むように彼を見つめている。

「すみません」

一旦席から離れ、もう一度おじさまに頭を下げた徹さんは歩き出す。
後ろを振り返ることもなく、真っ直ぐに前を向いたまま。
その表情はどことなく険しくて、怖い気さえする。
それでも、私はできる限りの笑顔で彼を待った。

もう、逃げない。
私は彼といたい。
たとえ何かを失うことになっても、離れない。

「乃恵」
「はい」

ためらうことなく私の腕をつかみ、グッと引き寄せる徹さん。
公衆の面前でも、不思議と恥ずかしさは感じない。
それだけ、彼に触れたい気持ちが強かった。

「行こう」

肩を抱かれ、私も歩き出す。

時折、周囲の視線が気にはなった。
何しろ、私はお見合いの席から彼を奪ったんだから。

でも、いいの。
この行動に後悔はない。