翌日。
午前11時。
都心に近いホテルで麗子さんと待ち合わせた。

土曜日だけあってロビーにも人が多い。
みんなきちんとした身なりの人ばかりで、中には和装姿の女性も。

時間になっても現れない麗子さんに電話もメールも繋がらず、しかたなくソファー席に座った私の横を振り袖姿の女性が早足で通り過ぎた。

もしかしてお見合いかしら。
休日のホテルで顔合わせなんて定番だものね。
まあ、私には無縁だけれど。

「すみません、お待たせしました」
向かいの席からかわいらしい声が聞こえ、
「いえ、私達も今着いたところですから」
柔らかい口調の男性。

どうやら本当にお見合いの席らしい。
見るつもりはなかったけれど、振り袖姿の女性に目がいった。

さすが一流ホテルのロビーだけあって席もゆったり配置されているから、向かいの席と言っても距離がある。
今だって座っている男性の背中と遅れてやって来た振り袖の女性が見えるだけ。
その他は柱に隠れてはっきりとは見えない。

「あなた、何やっているの」
慌ててやって来た女性を注意する中年女性の声が聞こえた。
「ごめんなさい」
きっとご親子なんだろう。

「本当に申し訳ありません」
中年女性の謝る声がして、
「本当にもういいですから」
背中しか見えない男性が、手を上げて止めている。

声の若さからして、この人がお見合いの相手みたいね。