切ないほど、愛おしい

「これね、徹も好きなのよ」
「え?」

急に徹さんの名前が出てきて固まった。

「徹も高校時代ここに来てよく、この焼きうどんを食べていたの」
「へー」

その頃の徹さんって、どんなだったんだろう?
かわいかったのかなあ。
生意気だったのかなあ。
案外やんちゃだったりして、

「乃恵ちゃんは徹が子供の頃の話は聞いた?」

「ええ。小学生の時にご両親が亡くなって、中学卒業まで社長さんの家で育ったって聞きました」

「そう。聞いたんだ」
「はい」

あれ、何かいけなかったんだろうか?

「徹ってね、ああ見えて警戒心が強いし、人に打ち解けていくのも得意ではないのよ」
「はあ」

私は初対面でいきなり声をかけられて、マンションまで連れて行かれたけれど。

「子供の頃に家族をなくしたせいか他人に本心を見せようとしないし、自分の思いを外に出すこともしないでしょ?」

「え、えぇ」

正直、「そうですね」とは言いにくい。
だって、私の知っている徹さんとは少し違うから。

「あのね、『無愛想で、無口で、かっこいいけれど冷たくて、でも仕事のできる切れ者』それが香山徹の一般的なイメージ」
「へえー」

「意外でしょ?」
「はい」
まるで別人の話を聞いているみたい。