「これがないと困るんだろ?」
「ええ」

こっそりとたばこを吸っているところを見られ、IDカード機能のついた身分証を落としたところを見られ、恥ずかしさで小さくなってしまった。

このまま身分証を落としたことに気づかなかったら、明日の朝焦るところだった。
電子キーの機能が付いた身分証をなくせば、通用口から院内に入ることもできないし、更衣室に入ることも医局に入ることもできない。
本当に、大変なことになるところだった。


「喫煙は体に悪いよ」

いつの間にか、ベンチに並んで座った男性。

「知ってます」

これでも医師ですからと言いかけて、やめた。

体に悪いのはよくわかっている。
でも、やめられない。

男性の言葉を無視するように、ポーチからタバコをもう1本。

シャポッ。
ライターに火をつけて、くわえたタバコに

「あぁ、」
突然口元から奪われたタバコ。

「やめなって」
取り上げたタバコを手にした男性。

「返して」

苛立ち気味に声をあげ、伸ばした手を
ギュッと、掴まれた。

「離して」
「嫌だ」

なんなのよコイツ。

男性から離れようと必死にもがいてみたけれど、ビクともしない。

もー、最悪。