「陣はね、ここ数日乃恵ちゃんに付き添うために仕事を休んだのよ。あの仕事の鬼が」
「はあ」

薄々気づいてはいた。
忙しいはずのお兄ちゃんが3日もまとめて休みが取れるはずないもの。

「それに、徹も心配しているわ」

え?
突然徹さんの名前が出て、驚いてしまった。

「あの2人は親友なの。学生の頃からずっと仲が良くて、私はいつもうらやましかった。でも、今回ばかりはダメみたいね」
「え?」

ダメってどういう意味だろう?

「陣の奴、ここのところ徹と連絡も取ってないみたいだし。.鈴森商事の仕事も断るつもりらしいわ」
「そんな」
私のせいで、お兄ちゃんと徹さんの関係が壊れるなんてイヤだ。

「とにかく、陣には連絡すること。それと、徹にも。ああ見えてかなりへこんでいるから」
「嘘」
そんなはずはないの思いが、つい口に出た。

「本当よ。あのポーカーフェイスが、私が見てわかるくらいに落ち込んでいるわ」

徹さん。
できることなら私も会いたい。
たった数日顔を見ていないだけなのに、凄く会いたい。
でも、

「乃恵ちゃん、急ぐ必要も無理することもないからゆっくり考えなさい。みんなあなたの見方だから。ね?」

麗子さんはどうしてこんなに優しいんだろう。
後数年したら私もこんなお姉さんになれるんだろうか?
きっと無理だな。

「麗子さん、心配かけてすみません。お兄ちゃんには後でメールしますから」
「うん」
麗子さんはそれ以上は何も言わなかった。

私は電話を切り、飲みかけのコーヒーを流し込み、病院へ向かった。