『体調は、大丈夫なの?』
「ええ、もう平気です」
『そう』

「あの、心配かけてすみません」
お兄ちゃんに対しては色々と思うところがあるけれど、麗子さんにはただ迷惑をかけただけで申し訳ない。

「乃恵ちゃんだって働いているんだから、自分の都合ばかり言っていられないのも理解できるわ」
「麗子さん」

ちょっとだけ胸が熱くなった。
気持ちが理解できると言ってもらったことが、素直に嬉しかった。
私だってお兄ちゃんには感謝しているし、もし立場が逆だったら絶対に止めただろう。
でも今の私は、どうしても仕事に行きたい。

「無理をせずに、休みながら仕事をしなさいね」
「はい」

どうして麗子さんには何もかも分かってしまうんだろう。
こんなお姉さんが欲しかったな。

「誰よりも乃恵ちゃんを心配しているのは陣だからね」
「はい」

「あとでいいから、陣に連絡を入れなさい」
「・・・」
それでも返事ができない意固地な私に、

「もう、しかたがないわねぇ」
電話の向こうから、麗子さんの溜息が聞こえた。