「ここは敷地内禁煙だろ?」

後ろから現れ、私の前に立ったスーツ姿の男性。

「えっ・・・あの・・・」

確かにここは大学の敷地内で、病院を含む大学の敷地内は禁煙となっている。
所々に看板も立っているし、病院でもやかましく言われている。
でも、

「こんな時間なら、誰にも見つからないと思った?」
意地悪く私を見下ろす男性。

「いえ、そんなことは・・・」

見つからないと高をくくったわけではない。

「みんなやってるから、いいと思った?」
「違います」

人がやっているから自分もやるなんて思ったことはない。

「病院職員が喫煙していたことがわかれば、騒ぎになるぞ」

まあ、そうね。
私にも詳しくはわからないけれど、敷地内禁煙をすることで診療報酬の加算があるんだそうで、結局病院の利益になるらしい。
だから、敷地内で職員が喫煙していたことがバレれば、診療報酬の返還や下手すれば追徴金って話にもなりかねない。
この人の言うことは間違っていない。
でも待って、

「どうして私が職員だとわかったんですか?」

ククク。
おかしそうに笑う男性。

何?

「身分証が落ちてるよ」

ええ?

言われて見た足元。

「あぁ」

本当に、写真付きの身分証を落としていた。