切ないほど、愛おしい

「おはよう」
「おはよう」

Tシャツにジーンズの普段着のお兄ちゃん。
一方私は、スカートにブラウスとジャケットの通勤着。
手には出勤用のカバンも持っているから、仕事に行くつもりなのは一目瞭然。

「どうしても行くのか?」
心配そうに、お兄ちゃんが私を見る。

「うん、元気だから」
だから反対しないでの思いを込めた。

「せめてあと1週間くらい休めないのか?」

「無理だよ」

私にだって受け持ちの患者はいるし、シフトだってある。
私が休めば誰かに負担が掛かるから、これ以上の無理は言えない。

「じゃあ、辞めろよ」
「はぁ?」

何を言われたのか理解できず、ポカンと口を開けた。

「そんな職場なら辞めてしまえ」
「そんな・・・」

まんざら冗談でもなさそうな真剣な顔のお兄ちゃんを見て、私は固まった。

お兄ちゃんは本気で言っているんだろうか?
ここまで来るのに私がどれだけ苦労したかを、知っているはずなのに。

「せめて、来週まで休めないのか?」

「だから、」
強い口調で言い返しそうになって、言葉を止めた。

いくら言っても無駄だ。
こと体調に関しては、お兄ちゃんはひかないだろうから。

「もういい、行ってきます」
「乃恵っ」

怒鳴るお兄ちゃんの声を背中に聞きながら、私は駆け出した。

「待て、走るな。乃恵、走るなぁ」
切羽詰まったお兄ちゃんの声が、少しずつ遠くなっていく。

立ち止まればお兄ちゃんに捕まってしまう。わかっているから、止らなかった。
お兄ちゃんも、私が暴走するのを心配して強引な手には出ない。
全てわかっていて、私はわがままを通した。