じゃ、俺も寝るかと腰を上げる。
その前に乃恵ちゃんの様子でも見ようと考えて、やめた。
もう俺の出る幕ではない。
彼女には陣がついているんだから。

その時、

「あれ、お兄ちゃんは?」
寝ているはずの乃恵ちゃんが顔を出した。

「風呂に行った」
「そう」
冷蔵庫から水を出し、立ったまま流し込む乃恵ちゃん。

こうしてみると元気そのものなんだがな。

「体は大丈夫?」
「ええ、もうすっかり。お兄ちゃんにもバレてしまったし、返ってすっきりしたわ」
「そうか」

秘密を持つってことは気が重いものだから。
結果、これで良かったんだ。

「お兄ちゃん、大丈夫だった?」
「え?」

「だって、随分怒っていたし、徹さんと喧嘩にでもなったらイヤだなって」

あれだけ陣に怒られていたくせに、俺のことを心配する乃恵ちゃんがかわいい。

「俺は大丈夫だ。病人は余計な心配しなくていいから、早く寝ろ」

本当はもっと優しいことを言ってやりたいのに、つい無愛想な言葉になった。

「はいはい。じゃあ、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」

パジャマを着てゲストルームに戻る後ろ姿。
細くて白くて、ポキンと折れてしまいそうなのに、芯は強い。
不器用でどんくさくて、それでも自分のキャパを無視して突っ走る無鉄砲さに惹かれている。
ヤバイ、俺はそうとう重症だ。

たった数日で随分と慣れてしまった乃恵ちゃんとの生活。
今日で終わりと思うと、
なんだか、寂しいな。