「明日の朝、乃恵を連れて帰る。仕事もなんとか休めそうだし、俺のマンションで面倒をみる。荷物は少しずつ運ぶから、もうしばらく置かせてくれ」

部屋の隅に置かれた大きめのバックを見ながらも、陣の表情は冴えない。
冷静を装ってはいるが、まだどこか苛立ちを含んでいる。

「ああ、わかった」

どれだけ止めたところで陣は聞かないだろうし、反対する理由もない。
俺は部外者でしかないんだから。

「乃恵の窮地を助けてくれたことは感謝するが、今後は何かあれば俺に知らせてくれ」

長年の友人である俺に随分気を遣いながらも、陣は怒っている。
本心は、『今後は乃恵と関わるな』と言いたいんだ。

「わかった。すまなかった」

自分のとった行動に後悔はない。
無鉄砲に突っ走る乃恵ちゃんを放っておくことはできなかった。
でも、陣の気持ちを考えれば詫びるべきだと思えた。

「もういい、シャワー借りるぞ?」
「ああ」

すっかりいつもの顔に戻った陣は部屋から出て行った。