大学と病院が1つの敷地内にある大きな建物脇に設けられた憩いのスペース。

何本かの木も植えられ、ベンチもあり、花壇には綺麗な花も咲いている
昼閒には入院患者や近くの保育園の散歩コースになっているこの場所も、夕方のこの時間には誰もいない。
だからこそ、私はここへ来た。

逃出したって何の解決にもならないのは分かっている。
明日になれば先輩や部長に呼ばれ、ネチネチと嫌みを言われるんだ。
それだけですめばいいけれど、患者のご主人が医療過誤だなんて言えば大騒ぎになる。
私の首はもちろん、病院規模の騒動になりかねない。

シュポッ。
ポーチから取り出したライターで、火を付ける。

スゥー。
口にくわえたたばこの煙を吸い込んだ。

ゴホ、ゴホゴホ。

最近はずっと吸わなかったから、咳き込んでしまった。

フウゥー。
それでももう一度吸い込み、
ハァァー。
今度は空に向かって煙を吐いた。

医者のくせに、病気持ちのくせに、女のくせに、
そう言われるのが大嫌い。
だから、切羽詰まると一番良くないことをする。
お酒もたばこも好きではないけれど、自分で自分を傷つけるように逃げてしまう。

こんな所をお兄ちゃんや先生に見られたら、怒鳴られるな。

フフフ。
想像しただけで、笑ってしまった。

その時、

「敷地内禁煙」

えっ?

突然声が聞こえ、私は固まった。