切ないほど、愛おしい

「乃恵、お前って奴は」
部屋に入ってくるなり徹さんの事は無視して私に近づいてくるお兄ちゃん。

「ま、待って、話せばわかるから」
あまりの形相に飛び上がり、窓の側まで逃げてしまった。

怖い。
それが率直な気持ち。
だって、こんなに怒ったお兄ちゃんを見たのは久しぶり。

「話せばわかるって言うなら、きちんと説明してくれ。入院したのに、俺に連絡しないってどうことだ?」
「それは、たいしたことはなかったし、知らせれば心配をかけるだけだと思って」

嘘ではない。実際1泊2日で退院できたわけだし。

「アパートはどうした?」
「えっと、それは・・・」

「借金取りに追われているって、どういうことだ?」
「・・・」

うーん、全部バレてる。

「乃恵っ、答えろっ」

どうしよう、お兄ちゃんが怖すぎる。

「陣、少し落ち着け」
見かねた徹さんが声をかけてくれた。

でも、

「徹、お前は黙っていろ。俺は今、乃恵と話しているんだ。お前との話はあとだ」

「お兄ちゃん」

10年来の親友で誰よりも心を許し信頼している徹さんに声を荒げるお兄ちゃんを見て、言葉が止った。
私は自分の都合ばかり考えて、取り返しのつかない行動をしたのかも知れないとこの時気づいた。

「乃恵、全て洗いざらい話してもらうぞ」
先ほどまでの怒鳴り声ではなく、少し落ち着いた声。

もう逃げられない。
ここで我を張れば徹さんとお兄ちゃんの関係を壊してしまう。
私は覚悟を決めて、正直に話すことにした。