「あ、じゃあアイスコーヒーとシフォンケーキで」

 神崎さんは、注文を聞くと手早くコーヒーを淹れた。
シフォンケーキも神崎さんのお手製だ。
 ふわふわして、しっとりと柔らかいので女性に人気が高い。
俺と瀬戸さんは、下を向いている女性を見ていた。
 アイスコーヒーとシフォンケーキを置くと女性は、
勇気を振り絞ったのか神崎さんの顔を見る。

「あの……結婚詐欺の犯人を見つけて下さい!」

 結婚詐欺!?
彼女の言葉に衝撃を受ける。人探しでも
よりにもよって結婚詐欺だなんて……。

「事情を詳しく聞いてもいいかな?」

神崎さんは、冷静に彼女に事情を尋ねた。
 するとスカートをギュッと握り締めながらも頷き
重い口調で事情を話してくれた。
 その内容は、驚かされることばかりだった。
彼女の名は熊山麗美(くまやまれみ)さんで30歳。
 熊山文房具という会社の令嬢らしい。

内気な彼女は、自分に自信がなく恋に臆病だった。
 それで友人の紹介で婚活パーティーサイトに登録。
するとそこのパーティーで岡原慶一という男と知り合った。
 内気な彼女を気遣い優しい彼。
それに弁護士をやっていると聞いて信用していた。
 だが、しばらく付き合っていると彼は、弁護士の案件で
お金が必要になったらしい。

 戸惑ったりしたが誠実な彼に惹かれていた彼女は、
お金を出した。最初の内は、きちんと返してくれたが
 同じことが何度かあり。
それでも彼を信用してお金を出し続けた。

 しかし、その内に連絡が取れなくなり
気づいた頃には、500万を騙し取られたらしい。
 もちろん住所も弁護士事務所もデタラメ。
PCウォッチも解約されていたらしい。データもない。
 かなり手慣れた犯行だ。

「お金のことはいいんです。ただ何故私に
あんな嘘を言ったのか知りたくて。
 私は、彼のことを信用していたのに……」

涙を流しながら気持ちを打ち明ける彼女に俺は、
 胸が締め付けられそうになった。なんて酷い。
その岡原って奴は、男としても最低だ。
 こんな純粋そうな彼女を騙してお金を騙し取るなんて。

「それは、酷いッスよ!!
 こんな健気な女性を騙すなんて……警察に
被害届は、出したんですか?」

「……はい。同じ被害に遭った人は、最近
多いみたいなのですが、どれも確かな証拠も
 手がかりがないらしくて……下手に動けないみたいで。
だから探偵事務所に相談したくてここに……」

「警察何やってんだ!?まったく役に立たないなぁ……」

瀬戸さんは、必死に彼女に同情するが
 あなたも警察官ですよね?とツッコミたくなった。
しかし警察が、それだと困ったな。
 被害が多いのに証拠も無いなんて……。
うーんと悩んでいると神崎さんがため息を吐いた。