こんなボーイッシュというか、うるさくていじられキャラな私にも、大切な推しがいる。

歌い手さんのグループで、その中のリーダーと、最年少を推している。

名前は出せないが、

リーダーの方が《Nくん》

最年少の方が《Rくん》だ。

Nくんはカッコイイ大人で、仲間思いの社長さん。

Rくんはホントに幼い感じがして、ショタボ。

全く違う2人だが、何よりも優しさが半端ないのだ。

歌はもちろん、ダンスも上手いし楽器も弾ける。

でも、優しさには勝てない。

いつでも人を心配してくれて、怒ることなんてNくんは特にない。

DMを送っても見られることなんて無いし、
ライブに行っても遠くて顔も見えない。

でも、思ってくれていることは確かだ。

よく友達に聞かれる。

「愛ちゃんって推しと優多くんどっちがいいの?」

そりゃぁ…推し様に決まっている。

こんなキャラではないことは自覚しているが、私は推しのリアコだ。

リアコというのは、実際に恋しているという事。

彼氏が居るのに好きな人が出来るのもどうかと思うが、自分で決めることだから別にいいと思う。

ただ、同担拒否になった訳では無い。

もちろん他のファン達を拒否するなんて仲間同士で戦っているのと同じだ。

そんな事、したくない。

周りの子に「私リアコ!」と言ったって、

「え、やば…」

「愛ちゃんらしくないよ…」

「こんな近くにそんな人いたんだ…ちょっと引く。」

なんて言いかねない。

いじられキャラだし。

だから、同じファンである真弓(仮)ちゃんだけに言っている。

まゆは、夏帆ちゃんと似ていて自己中心的。

しかも、人が好きになったものを全部真似するという最悪な性格。

さらに、その好きになった人を、まるで「私が1番!」と言うようにグッズはすぐ買うし、推しに貢ぐのは私の義務、なんて一生思ってるらしい。

もちろん義務だけれど、1回の通販に1万円以上かけるのも気が引ける。

普段話すのは別にいいし、家も近いからよく遊ぶ。

でも、すぐに好きなグループの話になるのが1番嫌なのだ。

だから、あまり関わりたくない。

一緒にLIVEへ行ったことはある。

でも、その時だって、

「うち公式のペンライトまだ買えないから、普通のペンライトで行こうね!」

って約束したはずなのに、

「見てー!ペンライト買ったの!」と写真付きでメッセージを送ってきた。

私は短気だし、まゆの性格も嫌い。

だからその時は正直にキレた。

「ごめんね」と謝っては来たけれど完全に許せる訳では無い。

そんなことがあっても、なんだかんだ友達思いな私は、「まぁいいや!今度遊ぼ」と言ってその場を和ませた。

こんな事、二度とあって欲しくない。
 
         ♥

「気を付け、礼。お願いします」

全員が口を揃えて「お願いします」と言う。

授業が始まった。

(あぁ…もう月曜日なんて嫌だ。)

先週はあんなに優多くんと会話が出来たのに、もう出来ない。

しかも1時限目から英語はキツい。

英語担当の先生は主任の女の先生。

声が高くて、うるさい男子にも怒りもしないから、イライラする。

「good morning! everyone!」

「good morning.」

みんな元気がない。

そりゃそうだ。週末明けの1時限目だから。

私なんて一言も発してない。

「question time!」

(出たよ…)

いつもの質問の時間。

答えるまで座れないという地獄の時間。

縦の列の人を座らせることも可能だが、私の列にはマシな人が一人もいない。

「Justme」と言って、1人で座った方がいい。

でも私は、英語は得意。

だが…

(手を挙げてもさされないじゃん…)

いくら手を挙げたって先生は他の人を見る。

だから、もう最後ら辺で座ることには慣れた。

いつも最初は手をあげない。

「Mr.Watanabe a scienceteacher?」

(はい…!!)

「はい、Ms.Ai.」

「Yes,he is a scienceteacher.」

「OK.」

「Justme」

静かに座った。

この問題は得意だ。

渡辺(仮)先生は私のクラスの担任。

面白い人で、名前が健(仮)だから、皆「健ちゃん」と呼んでいる。

どっかの小さい国の伯爵だとか。。。

(まぁ、ホントなのかわかんないけどね)

毎回その話が出る度に苦笑する。

『まぁ俺有名人だから!』

と言うのがお決まり。

理科の先生だから、この問題は答えることが多い。



「ありがとうございました」

授業が終わった。

「次数学かァァァァあああ!もう無理ー」

「英語の後に数学はキツイよねぇ‪」

お決まりの4人組で集まって話をする。

その時、前に優多くんが通った。

「あ、ほら、1年話してない彼氏じゃん」

「やめてよ…!!」

聞こえるように言わないで欲しい。

優多くんの耳が少し赤い。

(聞こえちゃったじゃん…!)

泣きそうになるくらいに恥ずかしい。

恥ずかしいのに、意識してもらってることが嬉しかった。

(もう…自分の気持ちわかんない!)

自分に苛立ちながらロッカーを叩くと、

「愛ちゃんごめんって!そんな怒んないでよ!」

「あんたに怒ってないよ!」

ムカムカしながら自分の席に着いた。

「愛ちゃん…?どしたんだろ。」

遠くからそんな声が聞こえる。

(どしたんだろ。じゃないよ…!)

(もう…訳わかんない。帰りたい。)

今まで、優多くんに会うために学校に来てるつもりだった。

でも今は、話も出来ない。

学校に来る理由なんてこれっぽっちもないよ。