気分が晴れて 笑顔になる私が 

見えるかのような タイミングで

スマホから 着信音が鳴る。


「あっ。悠樹さんです。」

私は お義母様に頷いて 通話ボタンを押す。


『明日香? 今 羽田に着いたよ。』

悠樹の明るい声は 私の心まで 明るくしてくれる。

『お疲れ様。早く戻れて よかったわ。』

『俺 このまま 病院に行こうと 思うんだけど…』

『私と結愛も 今 病院だから。待っているわ。』

『そうか。明日香 ありがとう。』

『ううん。気をつけて来てね。』



電話があってから 1時間足らず

お昼寝から 目覚めた結愛の 

長い髪を 整えていると 

そっと ノックが聞こえ 悠樹が 入って来た。


「パパァー。お帰りなさい。」

駆け出して 悠樹に抱き付く 結愛。

「ただいま 結愛。元気にしていたかな?」

悠樹は 結愛を抱き上げて 頬を寄せる。


「お母さん。大丈夫なの?」

「大丈夫ってことは ないわよ。交通事故なんて 生まれて初めてだもの。」

「ハハハッ。大変だったね。でも 元気そうで 安心したよ。」

「そうね。骨折だけで済んだから。明日香ちゃんが 毎日 来てくれて。助かったわ。」


お義母様は 悠樹にも 私を褒めてくれる。

「そんな…」と言って 俯く私を

悠樹は 優しい目で 見つめてくれた。


「仕事の方は どうだったの?」

「バッチリだよ。俺 有能だから。」

「プッ。よく言うわ。でも お父さんも 最近 やっと 安心して 任せられるって 言っていたわよ。」

「そうだろ? 俺 案外 取引先受けも いいんだよ。こう見えて…」

「フフフッ。頑張ってもらわないとね 明日香ちゃん。」

「はい。悠樹さん次第で 私の評価も 変わりますから。」

「なんだよ 明日香まで。参ったなぁ。」


多分 悠樹は 私の表情が 変わったことに 

気付いていたと思う。


” 怪我の功名 ” なんて 言うと

お義母様に 申し訳ないけれど。


お義母様の 怪我があったから

私は 何もない日常の ありがたさに 気付けた。


平和過ぎて 迷っていた心。

贅沢な寂しさに もう 悩まない。