大人しく 絵を描いていた結愛は

いつの間にか 眠ってしまい。


「結愛ちゃん ベッドに寝せてあげて。」

「お義母様 横にならなくて 疲れませんか?」

「ずっと寝ていると 腰が痛くなってしまうの。少し 座っていた方が 楽だわ。」


お義母様の お言葉に甘えて

結愛を ベッドに寝かせて。


そっと 毛布を 掛けていると

お義母様が ポツリと言う。


「明日香ちゃん。家族って なんだろうね…」


私は ハッとして お義母様を見る。


「私もね 柴本に嫁いだ頃は 色々 迷うことが 多くて。結構 大変だったの。」

お義母様が 静かに話し始めた。

「お義母様が…?」

「そうよ。私の実家は 商売をやっていたから。いつも家には 誰かがいて。すごく 賑やかで 活気があったの。それが 結婚したら いつも 1人でしょう?寂しくて 気が狂いそうになったわ。」


お義母様は 老舗の和菓子屋の娘で。

柴本家とは 釣り合った結婚だと 思ったけど。


私は 黙って お義母様の続きを 待った。


「私達 お見合い結婚だったの。私 最初は あんまり乗り気じゃなくて。主人は 5才年上だったから。随分 落ち着いて見えてね。」

悠樹は 私より 7才上だけど。

私は 年齢の違いは あまり気にならなかった。


「両親が 主人を すごく気に入って。強く進めるもんだから 何回か 会ったの。不思議なんだけど 会うたびに 年の差が 気にならなくなってね。」

「少し わかります。お義父様 考え方が 前向きで。若い社員にも 気軽に 話しかけて いらっしゃいました。」


「そうなの。すごく好奇心が強くて。私が 何を考えているか 知りたがったり。私 そんな風に 興味を持たれたこと なかったから。あっと言う間に 主人のペースに 飲まれちゃって。」

お義母様は 少し恥ずかしそうに 笑った。


「この人と 結婚したら 楽しいだろうなぁ、って。でもね。実際には 毎日 忙しくて。ほとんど 家に いないでしょう?裏切られた気分だったわ。」

私は とても驚いて お義母様を見つめた。


「寂しい時間は 多かったけど。家にいる時 主人は いつも 上機嫌で。不愉快な顔を したことがないの。外で 神経 擦り減らしているのに。家でも 無愛想になったりしなくて。だから私 主人を待っていたのよね。」

「えっ?」

「よく " 亭主元気で 留守がいい " とか 言うでしょう?私 そんな風に 思ったことないの。それだけ 主人は 家族思いだったから。」

「私も…」

「ねぇ 明日香ちゃん。寂しいって思えるって 幸せなことじゃない?旦那様を 待ってる奥様なんて 滅多にいないのに。」

「お義母様…」


お義母様の言葉は 胸に沁みて。

そんな風に 考えたことは なかったから…