私が 病院に着くと 

お義母様は 処置室にいて。


お義父様は 廊下て 待っていた。


「お義父様。お義母様は?」

「今 中にいるよ。足を骨折していて。その処置を してもらっている。意識も しっかりしているし。大丈夫だよ。」

お義父様は 少し笑って 私に 頷いた。


信号待ちをしていた お義母様の所に

衝突した車が 飛び込んで来たようで。


お義母様は 避ける暇もないまま

その車に 倒されたらしい。


「お義母様 大丈夫かしら…」

「これから 詳しく検査するらしいけど。衝撃も 強くなかったようだし。大事には なってないと思う。明日香ちゃん 心配かけて 悪いね。」

「私のことは 気にしないで下さい。でも 交通事故って 後から 色々 出てくるって。実家の父が よく言っていましたから。」

「そうか…松本のお父さんなら 詳しいね。」


お義父様とお義母様は 

いつも元気だけど もう70代。

簡単に 骨折って言っても 大変なことだから。


今 私には 何かできるのか…


私は 祈るような気持ちで お義母様を待った。


「あら。明日香ちゃん 来てくれたの?」

ストレッチャーに 乗せられて

処置室から 出てきたお義母様は

予想外に 明るい声で 私に笑いかけた。


「お義母様…大丈夫ですか?」

「ホント 驚いたわ。茶道に行く途中で。私 和服だったから 身軽に 動けなくて。いつもなら 簡単に 避けられるのに。間が悪かったのよ。」

「でも 元気そうで 安心しました。足の他に 痛いところは ありませんか?」

「見てよ。ここも 擦りむいちゃったの。傷 残るかしら?」

お義母様は ガーゼで覆われた 腕を見せて言う。


看護士さんに ストレッチャーを 押されて。

病室に 向かう間中

お義母様は 明るく 話していた。


お義父様の手配で 広めの個室に 落ち着いて。


看護士さんが 手際良く 

お義母様の回りを 整えてくれる。


「私 入院なんて 悠樹を産んだ時以来だわ。」

お義母様の笑顔は 少し 不安そうで。


私は お義母様のために 何かをしたい…


「これを機に 落ち着いて 少し ゆっくりしなさい。」


お義母様の 元気な姿に 安心したのか

お義父様の声は 私が電話を 受けた時より

落ち着いて 明るくなっていた。


「明日香ちゃん。そろそろ 結愛のお迎えじゃないの?」

「さっき シッターさんに お願いしたから。大丈夫です。それより お義母様。私 必要な物を 取って来ますよ?」

「あっ。そうね…じゃ 杉野さんに 連絡しておくから。取りに行ってきてくれる?」


ご両親の実家は 田園調布の豪邸で。

杉野さんは 長年 働いている家政婦さん。


「はい。必要な物があれば 途中で買ってきますし。」

「ありがとう。とりあえず 家から 持って来てもらって。それからね。」


私は お義父様とお義母様を 病室に残し

タクシーで 実家に向かった。