贅沢な寂しさ ~身分違いの結婚


食事の後 私を送る車の中で 悠樹に言われて。


「そんな。無理です。私なんか…副社長の立場が 悪くなります。」

驚きで 目を見開いて 私は 首を振る。

「そんなに 必死で 拒否しないでよ。」

「すみません…でも 絶対に 無理です。」

「それは 俺が 副社長だから?」

「はい。」

「じゃ 俺が ただの 柴本 悠樹だったら? どう?」

「そんなこと 考えられません。だって 副社長は 副社長だもん。」

「前田さんは 俺のこと 嫌い?」

「嫌いだなんて…」

「じゃ 好き?」

「ずるい…そんな風に 聞くなんて。」

「ハハハッ。俺 ずるいね。でも 俺は 前田さんが 好きだよ。」

「嘘です! 私なんか 好きなはずないでしょう。」

「嘘じゃないよ。俺 ずっと 前田さんのこと 見てたんだよ。時計を買う前から。」

「えーっ? 絶対 嘘です。」

「嘘じゃないって。あの日 外出から戻って 前田さんが モールに入って行くのが 見えたから。俺 前田さんを 追い駆けたんだ。話す きっかけが 欲しくて。」

「えっ……?」

「会社のことは 抜きにして。俺のこと 1人の男性として 見てくれないかな。」


いつの間にか 私のアパートに 着いていた。

停めた車の中で 悠樹は 私に言う。


私は 言葉を失って 悠樹の目を 見つめる。


私だって 悠樹のことが 好きなのに。

好きにならないように 我慢していたのに。


「ごめんね、泣かないで…」

無意識に 私の頬を 流れていた涙。

悠樹に そっと 涙を拭われて。

私は 泣いていたことに 驚いていた。


「何も 心配しないで。俺を 信じて…」

俯いて 涙を流す私を 悠樹は 抱き締めた。


「明日香。好きだ…本気で 好きなんだ。」

悠樹の胸に 抱き留められて

私は 肩を震わせて 泣いていた。