チラッと彼女がいる教室を覗くと、まだチラホラと人影がみえた。

夕焼けで赤く染められた、放課後の教室。
帰り支度をしながら、たたずんでいる彼女。

その横顔を見つけた途端に、思わず顔が熱くなった。

そして、ふいにこっちを見つめた彼女と、視線が交差する。

「「あ、、、、。」」

二人揃って、仲良くポカーンと口を開いた。

彼女は、まるで動揺を隠せていないかのように、同じポーズで固まっていた。

「えっと、蜜柑さん、大丈夫?」

俺はさりげなく気を配ろうとした。

「う、うん!ちょっと待ってね!」

ハッとしたのか、身体の一時停止が解けて、慌ただしく鞄に持ち物を詰め込んでいく。

「蜜柑ちゃん〜。バイバイ〜。」

「うん。また明日〜。バイバイ〜。」

そんな彼女に、たぶん彼女の友達が声をかけて去っていく。

誰もが知っている有名人、桜花桜だった。

「葉月くんも、またねー。」

「ん。またねー。」

学年一の美少女とも噂され、モデルのようなスタイルの良さと、男女問わず憧れるような顔の良さがあった。

完璧過ぎて、逆に眩しい存在。
高嶺の花だし、全く隙を感じない存在。

どうも俺には、同じ人間とは思えなかった。
別世界でキラキラと輝いて、遠くから見つめてしまう、憧れのアイドルみたいな女の子。

身近にいるのに、遥か彼方にいるんじゃ無いかと錯覚しそうになるぐらい、遠いところで生きているかのような雰囲気があった。

「葉月くん。、、お待たせ。」

下を向けば、身長差があるゆえに、俺と会話するときには必ず上目遣いになってしまう、(おまけにその顔が可愛い)彼女が鞄を太もものあたりに両手でぶら下げながら、こっちを見つめていた。

一気に、現実へと引き戻されドキッとする。

「葉月くん、帰りは自転車だよね?」

「そ。蜜柑さんと同じ方向だよ。」

「知ってる。小学校の同級生だもん。」

「一緒に帰ろっか。」

「うん。」

何気なくお誘いしてみたら、割と簡単にOKを出されてしまった。

そのまま肩を並べて歩きながら、再び下駄箱へとたどり着く。

「あのね、、告白の返事なんだけど、、。」

「う、うん。」

「実はね、、私あれから葉月くんのことで頭の中がいっぱいで、、ちょっと困ってるんだ。」

「んん?」

「昼休みの出来事が、頭の中から全然離れてくれないんだよ。夏の匂いとか、葉月くんの低めでカッコいい声とか、後ろ振り向いて手を振るときの仕草とか、、、あんな表情とか。」

「あんな表情って、俺、どんな顔してた?」

「、、あの顔は反則だよぉ。」

彼女はそう言って恥ずかしそうに照れて。

「ずるいよ、葉月くん。」

唇を尖らせながら、甘い言葉で俺を咎める。

その一言に、思わず期待してしまった。

「ねぇ、俺のこと、好きになった?」

「えっと、たぶん、ちょっとだけ、好き。」

「もっと好きになってよ。」

「だからね、付き合うとかはまだ早いから、まずは友達からーー」

「待てない。少しだけでも、俺に気があるんだったらさ、俺と付き合って。」

「えぇ!?」

「俺の彼女になって?デートしよ?」

グイグイと押されて、困惑する彼女。

だがまずは友達からなんて、はっきり振らないでキープされるのは嫌なんだ。

「蜜柑さん、覚えてる?小学校五年生の頃、俺達が保健室で会話してた日のこと。」

「えっ、うん。」

「もしかして、まだ人生つまらないとかって思ってたりする?」

などと話しつつも、肩を並べながら昇降口をくぐり抜けて、駐輪場へと向かった。

「、、、、うん。だって毎日退屈だから。」

「じゃあ、今日も人生つまらなかったの?」

「ううん。今日はね、葉月くんのことばかり考えてたし、ドキドキしてたから違うよ!」

「うん。ならもっと、俺にドキドキしなよ。これからは考えることも思うことも、俺が全部、独り占めにしたいから。そのぶん、俺が笑顔にしてみせるし、毎日ずっと楽しませてみせるから。」

これが俺の今の本音だった。

「だから、俺と付き合って下さい。」

同じ日に、同じ人に、二度目の告白をした。

返事はーーー。

恥ずかしいので、ここには書かない。
俺の脳内だけに、あればいいと思う。

三度目の正直なんて、ありきたりな展開だ。
二度目の正直ぐらいが、案外丁度いいのかもしれない。

その日に二人で帰ったいつもの通学路は、やけに夕陽が眩しくて、綺麗に輝いているような気がしたんだ。