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桜井くんの手に作った傷が、もう凝視でもしないと分からないくらいには治った頃。
勝ち取った花火大会が今日だなんてすっかり頭から抜けていたわたしは、呑気に洗濯物を畳んでいた。
そして、忘れているのはもちろん桜井くんだって。
「今日の夜ご飯、なにがいいですか?」
「なんでも」
「ええ、知ってますか?桜井くんがリクエストしてくれたことってないんです、…よ」
________ドーン!
突然鳴り響いた音にわたしたちは顔を見合わせる。
桜井くんが肩をびくつかせるところなんて、はじめてみた。
……じゃなくて。
「え、待ってこれ…。誰か撃ち殺された……?」
「……花火じゃねーの」
顔を青くさせるわたしに、呆れた声で桜井くんが言った。
ああ、なんて冷たい目。

